1960年代のテスト  MBの安全性が優れていることはすでに多くの人々によって語られていますし、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。しかし貴方は「安全性」という言葉を聞いて何を連想しますか?最近多くのメーカーで標準装備化されつつあるエアバッグでしょうか、それともシートベルトでしょうか。あるいはクラッシャブルボディ構造を連想されるかもしれません。
 しかしこれらの機能はパッシブ・セーフティと呼ばれ、事故が起きてしまった後の安全を確保するものであり、事故を防止するものではありません。事故を未然に防ぐための技術はアクティブ・セーフティと呼ばれ、パッシブ・セーフティとは分けて考えられており、パッシブとアクティブふたつのセーフティ装備があって初めて本当の安全が得られるのです。

1980年代のテスト  MBはもちろんパッシブ・セーフティに関しても優れた技術を持っており、その研究は1930年代から始まりました。40年代からは実車を使った対衝撃実験が始まり、50年代には早くも事故衝突時にキャビンの前後が潰れて衝撃を吸収、なおかつエンジンがボディの下に落ち込む事で乗員に危害を与えることを防ぐクラッシャブルボディ構造を取り入れた車を発売しました。
 その後も80年代にはエアバッグを一部の車両に標準装備するなど常に最先端のパッシブ・セーフティ機能を備えてきたMBですが、これらの機能も現在となってはどこのメーカーも標準装備している当たり前のものになってしまいました。事実1997年にヨーロッパで行われたユーロNCAPによる対衝撃実験で、MB(その際のテスト車両はW202/C180)が示した数値はごく標準的な値でした。最も数値が良かったのはVOLVO・S40であり、それに続きフォード、VW、ルノー、日産といったメーカーが良い評価を得ましたが、残念ながらメルセデスはそれらよりも低い評価に留まりました。この事実は他メーカーのパッシブ・セーフティ機能がMBの技術に劣らなくなった証拠でもあります。(ただしテストで良い評価を得たほとんどの車両はW202(1993年発表)より設計時期が新しかった事も付け加えておかなければなりません)

1990年代のテスト  しかしMBの安全に対する最も優れた技術はアクティブ・セーフティにあります。ダイムラーベンツ社は「事故原因の大半は人為的ミスにある」と考え、それを防止する策を講じてきました。  1967年から採用されたMB特有のジグザグしたATシフトパターンは誤操作を防止するためのものですし、70年には世界で最初にABS(アンチロックブレーキシステム)を量産車に装備しました。80年代になるといわゆるLSDと同じようなシステムを持つASD(オートマティックロッキングデフ)や、ABSとASDのシステムを融合させたASR(アクセレレーションスキッドコントロール)といったアクティブ・セーフティ機能を次々と市販車に装備。特にASRはグリップを失いかけた(滑り始めた)車輪をセンサーで感知し、4輪個別にコンピュータがブレーキ操作をしてグリップを回復するという画期的なシステムで、これによって限界走行時や雨天、雪道走行時のスリップ危険率が驚異的に減少しました。

 MBは乗り心地がよく快適装備が充実していることでも有名ですが、これらも全てアクティブ・セーフティの一部なのです。快適で疲労の少ない運転はドライバーの判断ミスを防止する事ができますし、ゆとりを持った運転を可能にします。そのためにパワーウインドウや集中ロックは60年代から採用されていましたし、ヒーター&クーラーは70年代からクライメイトコントロールという自動制御システムが登場しました。体格にあわせて細かく角度を調節できてクッションが硬めのシートが採用されているのも同じ理由からです。そして2速発進のAT(近年では1足発進)は発進時の飛び出しを防ぎ、初期反応を鈍くしてあるハンドルセッティングは車両の急激な挙動を防ぐなど、車を構成する全ての設計が安全性に基づいたものなのです。このように徹底した安全性能の追求は決して他のメーカーに真似できない部分であり、100年以上にも及ぶMBの歴史に裏づけされた安全装備の数々は「本当の安全性とはどういうものなのか」ということを我々に教えてくれます。

W124事故車  この写真の車両は、実際に高速道路で事故に巻き込まれた300Eです。フロントとリアは跡形もなく壊れてしまっていますが、キャビンは驚くほど何ともありません。搭乗者はシートベルトを着用していたらしくフロントガラスにもひび割れが見られませんので、恐らくかすり傷程度で済んだことでしょう。メルセデスの安全設計の優秀さは、このような場面で確実に証明されるのです。