1959年に登場した111シャーシは、MBとしては初めて完全なモノコックボディを採用していました。しかし、話題になったのはその構造よりもむしろ外観でした。50年代半ばよりアメリカ車を中心に流行となっていたボディスタイルを、メルセデスが取り入れたからです。大きくラウンドした前後ウインドウやテールフィンは、まさにアメ車のそれを意識したものであり、流行を追い掛けたスタイルだとしてユーザーの反応は賛否両論だったようです。またこのモデルから初めて「縦目」と呼ばれることになる縦長のライトカバーが採用され、後に登場するモデル全てに順次採用されていきました。
発売当初のW111は先代(W110)の220シリーズを引き継ぐ形で登場し、エンジンも基本的に同じ物を搭載したラインナップとなっていました。まず最初にスタンダード仕様の220が、廉価版であった219の後継モデルとして登場。その後上級機種の220S、220SEも登場します。これらの新シリーズはどれも基本的に同じエンジンを搭載しているのですが、220のエンジンは220Sのエンジンをディチューンしたものであり、さらに220SEは220Sと同じエンジンですが、燃料供給をキャブレターではなくインジェクションにしたことで、それぞれ出力は異なっています。
1960年にはこの111シャーシの2ドアボディが登場します。クーペとカブリオレの両方が登場しますが、どちらもセダンで物議をかもしだしたテールフィンは採用されず、リアビューは全く異なるものとなりました。グレードとしてはセダンのトップグレードである220SEのみが用意されており、220、220Sはセダンのみでした。
1961年からは最上級グレードとして300SEが登場します。最初に発売されたのは4ドアセダンで、その後62年には2ドアボデイのクーペ、カブリオレが、63年にはホイールベースを10センチ延長した4ドアセダンのロングバージョン、300SELも追加されました。この300SE/SELは単純にエンジンの排気量が異なるだけでなく、外装にクローム・モールが追加されたりパワーステアリングが標準装備になったりと、220シリーズに対しての差別化がされていましたが、最も大きく異なるのはサスペンションでした。220シリーズのそれがコイルとショックという標準的な装備だったのに対し、300SE/SELではエア/コイル併用のスプリングにショックを組み合わせたものだったのです。この方程式は後の108/109シリーズにも受け継がれ、永らく「300」というモデル名はエアサスを装備していることを意味していました。またW111は発売当初は全輪ドラムブレーキでしたが、300SEで初めて全輪ディスクブレーキが標準装備となり、後に220シリーズでもオプションでフロントのみディスクブレーキを選べるようになりました。
1965年はMBの大きなモデルチェンジシーズンであり、SクラスはW111から後継モデルであるW108/109シャーシへとバトンタッチすることになります。しかし新しいシャーシに変更されたのは4ドアセダンのみで、2ドアのクーペとカブリオレに関しては111シャーシのまま継続されました。ブレーキは新たに全輪ディスクブレーキが標準装備となり、これまでの220SE、300SEに加え250SEがラインナップに加わります。また同時に230Sというモデルが登場しますが、これは新しいSクラスセダン(W108/109)がより大きな排気量になったため、廉価版としてW111の4ドアボディを流用して設定されたモデルでしたが、1967年までの約2年間でカタログから姿を消しています。
1968年には2ドアボディも220SE、250SE、300SEの全てが消滅して、新たに登場した280SE1種類となります。そして翌69年には新開発のV8エンジンを搭載した280SE-3.5が登場。同時にフェイスリフトが行われます。このマイナーチェンジではエンジン高の低下に伴ってボンネットとグリルが低くなり、オーナメントも小さなものに変更されました。そのほか外装ではバンパーにラバーが追加されたりテールライトレンズ形状の変更が行われ、内装のデザインも大きく変更されています。その後71年までクーペ、カブリオレともに生産されますが、新しいクーペモデルである350SLC(W107)の登場に伴って2ドアモデルも生産を終了。111シャーシは完全に消滅します。
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