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いろいろな世界


夕べ教え子のK君から仕事で都内に来ているので食事でもどうかと誘われ、築地でお寿司を食べてきました。

彼が入塾してきたのは中3の夏休みからで、入ってきたときの成績はあまり褒められたものではありませんでした。
特に数学は1次関数のあたりから完全に落ちこぼれてしまっているようでした。
ですが、絵と字はスバ抜けて上手く、彼の描いたデッサンを見せてもらったときには、これだけで食べていけるかもと思ったほどでした。
お父様は有名な陶芸家でしたから、血筋だったのかもしれません。

秋になり志望校を決めるための3者面談で、工芸高校に進学したいとのこと、一応合格圏内ではあるけれど数学の成績をもう少し上げないと確実ではないというようなことをお話ししました。
すると、お母様が
「絵心に方程式や関数なんて必要でないすよね。だいたい私も生きてて使ったことありませんし。」
と仰るので、まだ若かった私は無礼にも
「お母様の生きていらっしゃる世界では必要ないかもしれませんが、人生どこでどう変わるか分かりません。方程式どころか微・積分やもっと高度な数学が必要な世界に進むかも知れないじゃないですか。狭い世界に閉じ込めようとするのはどうなんでしょう。」
などと噛み付いてしまいました。

それから3年経ってひょっこり顔を出した彼は、自動車のデザインをやりたいけど自動車メーカーに入ってそれをやるには大学を出てないとスタートラインにも立てないみたい。だから数学教えてくださいと言い出します。
中2の一次関数まで戻って一からやり直した甲斐あって、1年浪人はしたものの国立の工業大学に合格。
破壊工学 (簡単にいうと色んなものにドライアイスの玉をぶつけて変形破壊具合を研究するものらしいです) を専攻したのですが、一度見せてもらったノートにはもう私には理解できない数式が並んでいました。
卒業後、彼はめでたく自動車メーカーに就職。

聞くと、今はデザインではなく衝突安全ボディーの設計をしているそうです。

必要でないと決め付けて切り捨ててしまうのは簡単だけど、人生なんてどこでどう変わるか分からないものです。

ところで、彼によると、今や国産車の衝突安全性は世界一のレベルにあるそうで、もはやベンツは研究対象ではないと言い切っていました。

決められた速度と進入角度でのみ計測され評価される安全性基準だけで計れば、つまり君の実験室の中だけの世界なら世界一かもしれないけど、現実の衝突は千差万別。
ここは歴史の差が出るところだと思うよ。
必要でないと決め付けて切り捨ててしまうのは簡単だけど、基準なんてどこでどう変わるか分からないものです。

そう伝えると素直に頷いてくれた彼を見て、ちょっと嬉しくなりました。

by OZW


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