世界的な賞賛を浴びるメルセデス・ベンツ(以下MB)という車の名前を知らない人はいないでしょう。そしてそれがドイツの車であることも周知の事実です。しかし「なぜベンツがいいの?」という問いに答えられる人はあまりいないのではないでしょうか。

ゴッドリープ・ダイムラー、カール・ベンツ、ベンツ一号車

 MBの歴史は、そのものが自動車の歴史であるといっても過言ではありません。MBを生産しているダイムラー・クライスラー社(旧ダイムラー・ベンツ社。1999年米国クライスラー社との合併により社名変更)は、もともと「ダイムラー」と「ベンツ」という2つの異なるメーカーでした。
 1886年に世界で最初に作られた「原動力つき乗用車」の特許を取得したカール・ベンツ(1844〜1929)によるBENZと、その数カ月後に同じく自動車を完成させたゴットリープ・ダイムラー(1834〜1900)によるDAIMLERは第一次大戦後の1926年までお互いにしのぎを削るライバル同士でしたが、当時敗戦国であったドイツの経済状況の悪化からお互いの経営建て直しをはかるために合併しました。
 それまでにダイムラー社が生産する車の車名は、同社を経済的に援助するとともに自身でディーラーを経営してダイムラーの販売に大きく貢献した大富豪、エミール・イエリネスクの娘の名前をとって「メルセデス」と名付けられるようになっていたので、合併後の車名は「メルセデス・ベンツ」になりました。

 このようにして誕生したMBは、現在でも世界中の自動車メーカーの研究対象となっています。世界で最初に自動車を作ったメーカーが100年以上も常に自動車業界をリードし続ける理由はいったいどこにあるのでしょうか?

540K  MBが現在も守り続ける設計思想は、「安全性」「耐久性」「運動性能」といった自動車に最も必要な基本性能を大切にすることにほかなりません。安全性については1940年代から早くもクラッシュ・テストを導入して設計に取り入れてきましたし、堅牢なボディとシャーシに支えられた車体はメンテナンスさえ怠らなければ数十年という期間の実用に耐えられるだけの耐久性を備えています。運動性能についても自動車レース草創期より常勝を誇り「シルバーアロー」と呼ばれたかつての栄光はもちろんのこと、90年代に入ってからのF1、GT選手権での活躍ぶりを見てわかる通り常に最新の技術をレースの現場から市販車へとフィードバックしてきました。そしてこれらの「自動車に不可欠な要素」を高い次元で融合させていることこそがMBの素晴らしさなのです。

 このようにMBという車は常に「自動車の中の自動車」であり続けました。しかし一般的な日本人が抱くMBのイメージは少し異なるようです。
 MBは常に高い次元での車づくりをしてきましたが、それゆえに世界中で市販されている自動車の中でも最も高価な部類に入ります。日本でも初めて輸入された当初から高級車として扱われてきたために、「優秀な車」というよりも「お金持ちの車」あるいは「見栄っ張りの車」という印象を持つ人が少なくありません。また逆にそれが理由でMBに乗る人も多いことでしょう。しかしこの考えはMBという車を理解するにあたって何の手助けにもなりません。もし貴方がまだMBに乗ったことが無いのならば、今すぐにでも乗ってみることをおすすめします。馬力や最高速といった数値に表れる性能だけではない「何か」、高額なだけの他の高級車とは違う「何か」をきっと感じとれるはずです。その「何か」がメルセデス・ベンツなのです。