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三ツ星倶楽部 其之四 W109 300SEL 6.3 3/3 完璧じゃないからおもしろい!?

投稿者: 投稿日: 2010年5月23日 – 00:000

構成/田村十七男・芥川貴之志 撮影/山田裕之

170 ところで、アクちゃんはこのW109というモデルをどう見てんの?

AKU W108とW109に関して一つ言えるのは、過渡期のモデルってことですよね。クラシックとモダンの狭間に位置するというか。このクルマは雰囲気が良くて、現代でも通用する性能を持ち合わせているから、旧車の中でもおいしいポジションですね。

170 60年代から70年代の境目に登場したからね。クルマの世界では、60年代と70年代では取り巻く環境が大きく違ったし。わかりやすく言えば、夢のような楽しいクルマは、60年代までで終わっちゃうんだ。

AKU メルセデスにしても、戦前からの雰囲気を残しているのはこの世代までですからね。縦長のフロントグリルを持ったラグジュアリーモデル、すなわち300や220Sa、Sbという流れの最後のクルマです。この後継モデルであるW116になると、フロントグリルもヘッドライトも横長になって、すっかり佇まいが変わりますよ。あと、過渡期という意味では、アメリカのマスキー法が時代の節目になりますよね。

170 あったね、強力な排ガス規制法案だ。マスキー上院議員が提案したんでそういう呼び方になったんだっけ?

AKU あまりに縛りが厳しいので、当初の法案は後に否決されたんですよ。でも、排ガス規制の機運自体はどんどん高まっていきました。

170 ヨーロッパのクルマの多くが、世界最大市場の北米に輸出できなくなったんだよね。特に呑気だった英車はほぼ全滅状態。それでいくつかの老舗ブランドが消えるんだ。

AKU 排ガス規制もそうなんですけれど、安全基準もどんどん引き上げられていた時代です。小さくて華奢なクルマの多かった英国車は、特に苦労しましたよね。そんな時代背景が影響しているんでしょう。W108&W109のデザインも、ちょっと中途半端な感は否めないかなぁと。

170 言っちゃっていいの?そんなこと! じゃオレも言おう。新しくなろうと努めてはいるけれど、前作のイメージも引きずっていて、ぶっちゃけ、どっちつかずなんだよね。ボディサイズから来る迫力はある。でも、タテ目のフロントマスクはともかくとして、リアまわりのデザインはちとおざなり感が漂うなあ。リアのナンバープレートをめくって給油する方法は斬新だけどね。

AKU この時代までのメルセデスは、トランクリッドの中やナンバープレートの中に、給油口を隠す工夫をしていましたね。そういう気遣いというかプライドは、往年のメルセデスならではのエレガンスを感じさせるポイントですが、ただ後ろに給油口があると追突された時によろしくない。それで、’70年代以降はボディサイドから給油するようになっちゃうんです。

170 なるほど。安全性がデザインよりも優先され始めるわけだ。

AKU そうそう。特にこのクルマのデザイン面で、僕が中途半端だと感じるポイントは、メッキバンパーにゴムのトリムが付くようになったところなんですよ。様々な技術革新が行われて、デザインや構造が変化するのは当たり前なんだけど、いろんなマテリアルが重なって使われると、やっぱり見た目的には中途半端な印象が強くなる。鉄なら鉄の質感で統一して欲しいし、樹脂を使うなら逆にクロームなんかは極力廃した方が洗練されると思うんですね。

170 当時のメルセデスとしては最善の回答だったんだろうけど、次の時代を模索していたタイミングにつくったクルマと言えるかもしれない。

AKU とは言え、このクルマから樹脂のモディモールやゴムのバンパートリムを取り去ったら、それでカッコ良くなるかっていうと、それも違うと思うんですよね。メルセデスのデザインは優秀ですから。絶妙のさじ加減でバランスを取ってある。このクルマの場合は、多分そういう中途半端さも魅力のうちなんです。高級サルーンでありながら、ヤンチャなエンジン。クラシックのようで、モダンなスタイル。この時代としては最高の技術を投入していて、たとえば同年代の日本車とは比較にならないほどの性能を持ってるわけでしょ? ’60年代の国産車に今乗ろうとすると、たくさんの犠牲を払わなきゃいけないじゃないですか。でもW109は現代でもだいじょうぶ。今でもフツーに乗れるクラシックですよね。

170 その意見に1票! それは運転するとよくわかる。サイズにこそちょっと気を遣うけれど、走り出しちゃうといい意味でフツーなんだ。今回のクルマもカーナビが装着されていたでしょ。そういう現代的な使い方ができちゃうのは確かにスゴいよね。

AKU 実は僕もバネサスのW108を持っていたことがあるんですけど、すごくいいクルマだったんです。普通の2.8リッターだったから、6.3みたいな速さはなかったけれど、運転席から見える景色がとっても気持ちよかった。特にAピラーのあたり。フロントグラスが湾曲しているんですよね。当時の型ガラスだから景色が微妙に歪むんだけど、その屈折ぶりがよかった。現代の風景が、あのガラスを透すと昔の景色に見える気がして。

170 それ、わかる。古いクルマって一生懸命走るより、車内からの景色を楽しみながら流しているときが気持ちいいもんね。

AKU トナオさんのルックスで流していると、かなりチンピラ感がありますけど。

170 スリーポインテッドスターのTシャツを革ジャンで隠しているような人には、言われたかぁないね。

AKU いや別に隠してないっすよ。これね、ヤナセで売れなくてセールになってたんです。いーでしょ。

170 どこのヤナセ?

AKU 芝浦。しかも部品部。

170 部品部にTシャツ置いといても売れるわけないよね。

AKU まあそんな話は置いといて、いずれにしてもW109が超高級車であったことは間違いないですよね。どちらかと言うと保守的な高級車をつくり続けてきたことで、メルセデスは上品とか完璧だと言われるようになった。でも実際は6.3リッターのエンジンを無理矢理乗っけちゃうような荒々しい部分もある。それがメルセデスのおもしろいところなんじゃないかなあ。完璧だからといって、すべてにおいて保守的だったらつまらないですもんね。

170 確かにこのクルマはちょっとバランスが悪いんだ。でも、それこそが個性。メルセデスのエクボみたいなクルマなんだなあ。

かなり手を入れられて、良い状態をキープしている今回の取材車両。6.3は特別なクルマだけあって、部品代も整備代もスペシャルなんだそうです。その完璧な整備のお陰で、今回は本来の6.3の走りというものを、確認することが出来ました。とはいえ、フルレストアを受けた車両というわけではないので、部分的にヤレの見られるところがあったのも事実。何でもかんでもキレイにしちゃうのが、旧車の乗り方として良いのかどうかはともかくとして、一応まだ伸びしろはありますよ、という意味での二ツ半でございます。でもあまりにもピカピカだと、ちょっと乗るのが躊躇われるクルマではありますから、このくらいが丁度良いのかもしれませぬ。実はオーナー、次のクルマを物色中とのことで、欲しい方がいればこの6.3を譲るとのこと。そこのアナタ、こいつを手に入れて三ツ星コンディションを目指してみませんか?


1970y Mercedes-Benz
W109 300SEL 6.3

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