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三ツ星倶楽部 其之五 W107 500SL 3/3 試されるのは、選択する感覚と維持する知恵

投稿者: 投稿日: 2010年7月2日 – 00:000

構成/田村十七男・芥川貴之志 撮影/山田裕之

AKU 107を維持する上で一番ネックになるのは、消耗品の交換サイクルが早いことですね。小さいモノコックにV8を積むというのは、メルセデスとしては初めての試みだったこともあり、特に熱の問題が解決できていない。フロント周りのゴムのパーツはどれも早期にイカれちゃうんです。足回りのブッシュやホース類、プラグコード、ギヤボックスシール……。中古車屋に並んでいる個体でそれらを交換してあることはほとんど無いですから、これから107を買うならそういった部分の費用がかかるのは初期投資と考えて諦めるしかないでしょうね。しかしいざ直そうと思うと、パーツが高価なのもキツいです。セダンがベースとは言え、SL専用部品は多いですからね。特にこの10年くらいの間に、価格がおよそ2倍に跳ね上がりました。現在ダッシュボードは40万円、幌は35万円です。供給が終わっている部品もあるし、部品の確保はこれからもっと難しくなるでしょう。

170 古いクルマは部品の確保が深刻だよね。

AKU 107の場合、大ヒットしたアメリカでは社外品が多く出回ってるんですよ。ただアメリカで流通している部品は粗悪品が多いので、注意が必要なんです。SLのウェザーストリップって、かなり神経質なつくりなんですね。そもそもピラーレスだし、幌の時とハードトップの時ではクリアランスも変わるから建付けがシビアで、純正品は段階的にウェザーストリップの素材を変えたり、中空構造にしたりして対応しています。ところがアメリカで売ってる社外品のウェザーストリップは、無垢のゴムのカタマリなんです。それだと100年調整したってまともにドアが閉まらない。専門店と呼ばれるショップでさえ、そんな部品を平気で使ってます。

170 なかなか厳しい状況だね。

AKU 古いメルセデスの知識が豊富なショップが少ないんです。というのも、メルセデスベンツのオーナーの場合、多くがクルマのことをよくわかっていないし、自分でいじったりもしないから、ショップの仕事が杜撰でも見抜かれることが無いし、だからショップが育たない。これはなかなか解決できない問題なんです。もちろんすべてのショップがそうだとは言いませんけどね。

170 どうしたらいいんだろ?

AKU 工場についてはとにかく良い工場を探して下さいとしか言えませんが、部品については前々からスピードジャパンに強くリクエストしていて、今後107の部品も在庫してくれることになりました。純正部品が中心になりますが、ドイツの卸商から輸入しますので、かなり安く提供出来るそうです。

170 危機感を煽る商法?

AKU いえいえ、そういうわけじゃないですけど。実際に好きで乗っている人には苦しい状況になってきてるんですよ。だから何とかしたいなと。幌なんかは純正だと高いし、消耗品みたいなものなので、純正品と同じ素材を使った社外品を扱う予定ですけどね。

170 でもさぁ、昔のクルマなんだから、部品くらい安くてもいいんじゃないの?

AKU そこは腐ってもSLですから。ここにたまたま昭和49年のヤナセの価格表がありますが、450SLは762万円ですよダンナ。最後の560SLに至っては1500万円ですから。もともと高いクルマなんです。

170 アクちゃんも愛車の維持は大変?

AKU 今はそんなに大変じゃないですね。僕が今乗っている500SLは2台目で、2001年に手に入れたんですが、最初に気になるところは全部やっちゃったんです。全塗装して、モール類やウェザーストリップも交換して、エンジンも点火計系と燃料噴射系はやりました。特に足回りがダメで、ブッシュを総入れ替えしてブレーキも全部新品にしたら見違えるような走りになりました。それ以降、スプリングを変えて車高を落としたりして、自分なりの味付けにしていますが、たまに消耗品を交換したりするくらいで、大きな出費は無いですね。

170 じゃ、もう10年近く乗ってるんだね。

AKU 最初に買った500SLからだと13年。

170 飽きないの?

AKU 自分でも意外なんですが飽きませんね。楽しいんですよ。僕はスタイル的にはW113の方が好きだし、見るたびにいいなーって思うんだけど、乗ってみるとつまらない。107も決してスポーティではないんだけど、かなり気持ちよく走るじゃないですか。突き詰めてみると、W107にしかない世界観があるってことだと思います。他にないんですよね、この雰囲気。最近のオープンカーみたいにAピラーも寝てないし、解放感があってクラシックな雰囲気もある。だけど、その気になれば走りもそれなりに楽しめる。楽しみ方の幅が広いクルマですね。元が超高級車だから、維持するのはそれなりに覚悟が必要ですけど、簡単に手に入るカッコよさなんて薄っぺらいでしょ?

170 本質論だね、それ。

AKU 選択する感覚、維持する知恵。それを試されるんじゃないですか、こういうクルマに乗るというのは。単にお金の問題じゃないですよね。高いクルマ買って、オラオラどうだスゴイだろってのは、今やカッコイイとは言えないでしょう。そういう価値観ははっきり言って古い。

170 今日的にW107はアリ、というのもそこなんだ。いい意味で垢も油も落ちて、今乗るならカッコいいと思えるんだよね。ようやくクルマ好きの懐に降りてきてくれたように見える。そこが古いクルマのいいところで、新しいものが持つ価値とはまったく違う性質がある。ただ、どんなクルマでも古くなればカッコよくなるわけじゃない。そんなことをW107は語っているような気がするなあ。

AKU あとやっぱり魅力の1つは出来の悪さなんですよね。あのメルセデスでありながら完成されていないところ。それが最大の魅力です。美人は3日で飽きるって言うけど、出来のいいクルマも3日で飽きます。

170 で、オレはその出来の悪いクルマが気持ち悪いほど似合うと……。

AKU 人間的にアブラが抜けてきてるんですよ、きっと。

170 それって、褒めてる?

次回 W107特別編 に続く……


今回の107は1989年の最終型。走行距離も少なく、かなり素性の良いクルマだとは思うのですが、残念ながら取材時はあまり状態がよろしくありませんでした。特に燃料噴射の制御に問題があったので、本来の走りが出来なかったのは残念。あと外装と内装も、致命的な傷などは無いものの、少々荒れが目立ちました。走ることを重視しているオーナーさんなので、見てくれよりも中身で勝負。といったところなのかもしれませんが、もう少しだけ手を入れてあげて!と思っちゃいました。しかしこの取材の後、このクルマはエスファクトリーに入庫しまして、エンジンと足回りの整備を受けて現在は絶好調とのこと。残念、整備後だったら二ツ星だったんですけどね……。

というわけで、なかなか維持に苦労してるオーナーさんの多いW107。次号では特別編として、W107のウィークポイントなどを特集しちゃいますので、請うご期待。

>次回特別編に続く……


1989y Mercedes-Benz
W107 500SL

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