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三ツ星倶楽部 其之五 W107 500SL 特別編 2/3 機関編

投稿者: 投稿日: 2010年7月24日 – 00:000

構成・撮影/芥川貴之志

何だかんだ言ってもやっぱり一番重要なのがエンジン、サスペンションといった走りに関する部分。すべてを細かく掘り下げていくと、本が一冊書けちゃうくらいになりますので、本当に軽く触れるだけになってしまいますが、ポイントを絞ってご紹介しておきましょう。

エンジンで一番重要なのは燃圧。

18年も生産されていたW107ですので、初期と後期ではかなりシステムが変わっているのですが、1976年〜1989年の間はK&KEジェトロ(※正式にはジェトロニック)という機械式のインジェクションシステムが採用されていました。現在生き残っているW107はほとんどがこの年式の車両ですので、ここではそれ以前のDジェトロについては割愛させて頂きますのでご了承を。

で、その機械式インジェクションですが、まずは基本であるKジェトロ(モデルイヤー1976〜1985のW107に採用)のシステム図をご覧下さい。

いきなりこんな図を見せられても、何のことかわからないかもしれませんが、まず燃料タンクから順に燃料がどんな風に流れるか見て下さい。Kジェトロの場合、まずイグニッションSWをオンにすると燃料ポンプが作動し、ライン全体に4.5〜5.3kg/cm2の圧力がかかります。そしてエンジンを始動した後は、アクセルコントロールで吸気量が増えると、エアフローメーターによってフューエルディストリビューター(以下フューエルデスビ)内のコントロールプランジャーが動かされ、燃料の流量が調整されます。ちょっと難しいかもしれませんが、イメージとしては水道の蛇口に近いと考えて下さい。水道も配管内では一定の圧力がかかっており、流量は蛇口をひねる量で調整しますね?Kジェトロの場合は、まさに燃料の蛇口が付いているようなもので、チョロチョロからドバドバまでの調整をフューエルデスビ内で行っています。

実は国産車や最近のメルセデスなど、多くの自動車に装備されているインジェクターは、これとは違ったシステムを持っています。それはDジェトロというタイプとその進化系で、俗に電子式と呼ばれているタイプです。電子式の場合はパルス制御によって燃料噴射が行われるのですが、インジェクターノズル自体が燃料を送り出す動作をするため、燃料ライン内の圧力はさほど重要ではありません。ところがKジェトロの場合、燃料ポンプによって作り出された圧力がそのままノズルから噴射する力になるため、ライン圧が落ちると噴射量も減るという結果になってしまいます。家の蛇口も、風呂場でシャワーを使ったりすると水圧が落ちて、いくら蛇口を開けても水が出なくなりますよね?それと同じ現象が起きてしまうのです。

この電子式と機械式の構造的な違いは、多くのメカニックがはまる落とし穴だと思います。整備のコツと言いますか、調子を崩す原因となるポイントが違うのです。Kジェトロを搭載したエンジンの場合、もちろん点火系の異常などにも注意を払わなければいけませんが、一番のポイントはライン圧です。ライン圧が正常でなければ、いくら他を調整しても無駄です。よくライン圧が下がってしまったクルマで、フューエルデスビの調整ビスを回して燃料を濃く調整して誤魔化しているケースを見かけますが、これでは流量は増えても圧力が上がらないため、一見調子が良くなったように見えても、燃料がシリンダー内で正常に気化されず、すぐに調子を崩します。これは本当に多く見られるミスで、ヤナセなどのディーラーでも普通にやっていますので、注意が必要です。

ではどうすれば燃圧が正常になるかと言うと、まずは燃料ポンプリレーと燃料ポンプ本体です。これらが劣化して吐出量が減ることで、圧力が下がることが原因としては一番多いようです。よくポンプから音が出たら交換、なんて言われますが、実際音は関係無いと思います。音が出てても吐出量に変化がなければ問題無いわけですから。そしてフューエルアキュームレーターやフィルター、インジェクターノズルといった部品も、劣化した燃料やカスが堆積して通路を塞ぎ、流れを悪くするケースが多々見られます。ですから古いクルマでこれらを交換した形跡が無い場合は、一度まるごと一式交換してやることで、燃料システムを初期化することが出来ます。そうして正常な燃圧にしてやらないと、調整作業もすることが出来ないわけで、交換するべきものを交換せず調整だけで何とかしようと思っても、結局治らないままになってしまいます。

ではKEジェトロの方も見てみましょう。

こちらがKEジェトロのシステム図です。Kジェトロとの一番の違いは、エレクトロニックコントロールユニット(ECU)による制御が積極的に行われるようになっているところです。フューエルデスビには差圧レギュレーターという部品が追加され、この部品に電気信号を送ることで、フューエルデスビ内の燃圧を任意に変化させることが出来るようになっています。つまり気温や水温、排気ガスの濃度をECUが見て、それに応じた適切な噴射量に調整する機能を持っているのです。

KEジェトロが生まれた背景には、性能向上というよりも環境対策という側面がありました。よりクリーンに、より低燃費にするため、こういった機能が必需となったわけです。ですからKEジェトロを搭載した車両でも、ヨーロッパ仕様の500SLなど、マフラーの触媒やブローバイシステムを備えていない個体だと、O2センサーも取り付けられておらず、KEジェトロを搭載していてもECUは排ガスを見ていない場合もあります。

KEジェトロの場合、ポイントはフューエルデスビの前後でライン圧が変わることです。ですから燃料ポンプ等を交換してフューエルデスビ以前のライン圧が正常になったとしても、O2センサーが変なフィードバックをしたり、差圧レギュレーターが壊れてしまうと、フューエルデスビ以後のライン圧が崩れて不調になってしまうのです。ですから問題の部分がどこにあるのか、を探るのが少々困難となりますが、基本的な構造はKジェトロと一緒ですので、やはりライン圧が重要というのは変わりません。

点火系や内燃機に関する説明は次の機会に譲りますが、基本的なところは古めのメルセデス全てに共通します。プラグコードがリークしていないか、デスビキャップ&ローターが摩耗していないかなどのチェックは、当然必須です。また丈夫なエンジンですのでそう簡単に壊れることはありませんが、オイルは鉱物油ベースが良いでしょう。化学合成油は樹脂やゴムの部品を痛めます。稀にチェーンガイドが破損してタイミングチェーンが切れた、なんてトラブルもあるようですが、そういったケースも鉱物油だけを使っていれば防げたのではないのかな?と個人的には思います。もちろん確証があるわけではありませんが、自分の経験上では古いメルセデスに化学合成油の組み合わせは、リスクが高いと判断します。

フロントの足回りは要注意。

本編でも説明した通り、W107のフロント足回りはいわゆる縦目コンパクトと呼ばれるW114&115がベースになっています。リアはW116に近いもので、特に問題はないといいますか、トラブルは少ないのですが、問題はフロント。華奢な(?)サブフレームに重いエンジンを載せ、エンジンルームも狭く設定してしまったものだから、さあ大変。サブフレームに亀裂が入るわ、ゴム部品がすぐイっちゃうわで、注意深く点検する必要があるのです。

ちなみに問題のサブフレームに関しては、下記の車体番号がリコールになっています。しかし、実際には’80年代前半の車両(500SL、500SLC等)でも同様のケースが見られるので、注意が必要です。

型式
通称名
車体番号
107023
350SLC
WDB107023-12-000001~013925
107043
350SL
WDB107043-12-000001~015304
107024
450SLC
WDB107024-12-000001~013547
107044
450SL
WDB107044-12-000001~030992
C-107024
450SLC
WDB107024-12-013548~032223
C-107044
450SL
WDB107044-12-030993~066298

熱害によるゴム部品の劣化はかなり多く見られるケースで、サブフレームマウントやエンジンマウント、サスアームマウント、タイロッドブーツ、各種ホースなどは、定期的にチェックした方が良いでしょう。しかしこれら全てを交換するとなると、かなり金額的にもかかってしまうため、手を入れられないままになっている車両を、中古車市場では多く見かけます。現状大丈夫だとしても、乗り始めるとすぐにダメになる、というケースも多いので、これからW107を買おうという人は、フロント周りの総体的なリフレッシュも、車両購入計画の一部に入れた方が良いのではないでしょうか。

フロント周りの重い部品一式を支えているサブフレームマウントは、特に劣化しやすい部品です。車高や走りの安定性、乗り心地にも影響しますので、交換した形跡が無ければ一度交換してみることをオススメします。ただし社外部品の中にはセンターが合っておらず、クルマがまっすぐ走らなくなるような物があるそうなので、御注意を。純正部品か、OEM供給しているFebiビルシュタイン、レムフォーダーあたりがオススメです。

またステアリング系統も、W107の場合は重いエンジンを搭載したことで、痛みやすくなっています。ステアリングギアボックス本体やギアボックスとコラムを繋ぐジョイント部にガタが出ていたり、タイロッドにガタが出ている場合が多いので、こちらも定期的な点検と交換が必要と言えるでしょう。

これらの部品は並行輸入部品などを使うことで、経費や安く抑えることが出来ますが、エクステリア編でも触れた通り、アメリカ等で出回っている部品は粗悪品や偽物が多いようです。安いからと言って飛びついてしまうと、正常にアライメントが出せなかったり、すぐにまた交換が必要になったりという結果になりますから御注意を。実は筆者自身もそういった経験がありますので、少し紹介しておきましょう。

この写真を撮影した日付は、2002年8月27日です。今も乗っている500SLのタイロッドが痛んでいたので、自分で交換をしました。左の古いタイロッドのブーツから、グリスが漏れているのがわかるでしょうか?

この時はアメリカからパーツを取り寄せました。MEYLE(マイレ)というメーカーのもので、OEMメーカーでは無さそうでしたが、とにかく値段が安かったので、まぁたいして変わらんだろうと考えて購入したのです。ところが片側のタイロッドのエンド部のネジがロックしていて、回らないのです。これではアライメント調整が出来ませんので、さあどうしようと考えた結果、まだブーツの破れていない純正のタイロッドと組み合わせて使うことにしました。幸いガタも無かったし、ネジの規格も一緒でしたので、恐らく15年間無交換だったオリジナルタイロッドと、マイレのタイロッドエンドを組み合わせたのです。

それから7年後、2009年のことです。いつもお世話になっている工場に、エンジンマウントとサブフレームマウントの交換をお願いしたのです。預けてから数日後、電話がかかってきました。「タイロッドがダメですね〜。ブーツ割れてますよ。」とのこと。すぐにスピードジャパンからタイロッドを工場に送ってもらい、数日後に作業は完了。受け取りの際に外した部品を見せてもらって驚きました。破れていたのは、交換した新しい方の部品だったのです。

こちらが7年後の姿。右は7年前に新品で購入し、取り付けたマイレのタイロッド。左は22年前から無交換だった純正のタイロッドです。純正の方のブーツはまだ使えますが、マイレの方は完全にアウト。こんなブーツ全体がヒビ割れてしまうようなタイロッドエンドは、初めて見ました。

僕のクルマは4つのタイロッドエンドのうち、3つがマイレだったわけですが、そのすべてが同じようにヒビ割れていました。ですから偶然ではなく、クオリティがそういうレベルなのでしょう。対してレムフォーダーが生産したと思われる純正のタイロッドは、まだ使える状態なんです。ちなみに7年間の走行距離は約4万キロ。年数から言っても、距離数から言っても、この程度で寿命を迎えてしまう部品など、はっきり言って問題外です。そういった部品が広く流通していて、中には純正よりも質が良いなんてデタラメなことを言っている業者さんさえいるそうですから、まったく困ったものです。

実はワタクシ、これが発覚する前にもマイレで失敗をしています。W124に乗っていた時、ウォーターポンプから水漏れを起こしてしたので、マイレの安いポンプを購入して交換したんです。そしたらなんと、ポンプの鋳造に問題があって、新品なのに水が漏るじゃありませんか。

今では質の悪いウォーターポンプは水漏れするというのが、半ば常識化していますが、当時はそんな話は聞いたことがありませんでした。それ以来、品番違いも含めて個人輸入のリスクの大きさを強く実感して、部品はほとんど国内で買うようにしているのですが、いずれにせよ質の悪い部品に当たる確立の高いメーカーには、注意が必要です。スピードジャパンでも過去にそういった部品を出してしまったことはあるそうですが、工場やお客様からのフィードバックがあれば、すぐに検証して取扱いを止めたり、代替品を供給したりするようにしているとのことです。すべての業者さんにそういった対応をして頂ければ文句はありませんが、なかなかそうもいきませんね。皆様におかれましては、くれぐれもネットオークションで粗悪品を掴まされることなどないよう、お気をつけ下さいませ。

次回、インテリア編(3/3)に続く……

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