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キャリパー

 
昨日のブログをご覧になったお客様から、単純にピストン数の多いキャリパーにすれば止まるようになるのか?もしそうなら他車種流用できそうなよりマルチポットのキャリパーが欲しいのだけれど、というお問い合わせを頂きました。

答えはYESでもあり、場合によってはNOでもあります。

ブレーキは実に奥が深く下手にいじり始めると制動距離がかえって伸びてしまうことがよくあります。
サスペンションも含めたシステム全体で考えないといけないわけですが、それをやり始めるとあまりに話が複雑になってしまいますので、とりあえず今日はキャリパーだけの話に留めたいと思います。




ブレーキはタイヤの性能を越えられない。
オーバースペックな馬鹿でかいブレーキシステムはバネ下重量を増やすだけだから、ホイールをロック出来るだけのブレーキ容量があれば必要十分という考えです。

これはその通りではあるのですが、高速域でタイヤをロック出来るほどのブレーキとなると、やはりそれなりの容量のブレーキシステムが必要になってきます。
たとえば、190Eのタイヤは、前後とも 215/45ZR17 なのですが、これで計算すると200Km/h走行時のホイールの回転数は、おおよそ1,700rpmになります。
なんと1秒間に28回転以上です。

これを止めたいわけですが、まずは事象を単純化するためにタイヤのグリップを除外して、たとえば車を宙に浮かせた状態で考えてみます。
つまり、単純に高速回転するローター、ホイール、タイヤといった重量物の慣性モーメントに対して、これをロックさせるまでにかかる時間を短縮するにはどうすればいいかを考えてみましょう。

摩擦力 = パッドの摩擦係数 X ピストン荷重 ですから、一番手っ取り早いのは摩擦係数の高いパッドに交換することです。
ただ、欧州車の純正OEMより大幅に摩擦係数の高いパッドは存在しませんので、これには限界があります。
そこで、次の手としてピストン荷重を大きくしてやることが必要になってきます。
これは簡単で、ブレーキペダルを今まで以上に強く踏みつけるだけでOKです(笑)
冗談みたいですが、実はプロのレーサーと素人の差が一番現れる部分なんですよね。
もっともこれが出来るようになるには訓練も必要ですし人力には限界もありますので、この方法以外でピストンがパッドを押し付ける力を増加させるには、ブレーキブースターを大型化するか、油圧ブレーキの場合、キャリパーのピストン径を大きくしてやることが考えられます。
後者の場合なら、一つのピストンでもとにかくそれを大型化してやれば、それに比例してピストン荷重は増していきますので、この時点ではわざわざピストンの数を増やす必要はないように思えます。

一方、慣性モーメントを考えると摩擦力を作用させる場所は出来るだけローターの外周付近にしたほうが有効です。
円盤の回転を止めるのに円盤の中心付近より外側を挟んだほうがいいというのは感覚的にも分かると思います。
つまり、制動力 = 摩擦力 X 摩擦作用半径 ということになるので、トータルのピストン径を大きくするのに一つのピストン径を大きくする( ピストンの中心点はローターの中心に近づいて行ってしまう )より、小さなピストンをローターの外側に多く並べたほうが摩擦作用半径が大きくなって制動力もアップするということです。
これこそがマルチポットキャリパーの利点なんですね。
ちなみに、パッドの面積は主に耐久性には影響しますが、摩擦力そのものには全く関係せず、従って制動力そのものにも関係性がありません。

既にお気づきだと思いますが、ここでは宙に浮かせたタイヤを想定しているわけで、この場合、タイヤサイズもローター径も前後同じなら、キャリパーも前後同じにすべきということになります。
でも、普通はフロントのほうがローター径もキャリパーも大きいですよね。
ブレーキング時の荷重移動があるからなのですが、他にも荷重によってタイヤのグリップ力が変化しグリップ限界点も変わりますし、ABSの介入領域など色々な要素が複雑に関係してきます。
キャリパーの大型化が常に制動距離の短縮に結びつくとは限らないところが、ブレーキシステムの難しいところです。

これはまた別の機会に書いてみたいと思います。


By OZW



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